障害者福祉への参入、命預かる責任は・・・参考文献30)2024年9月11日 朝日新聞朝刊
安定した経営は、両立できるのか。ほかの施設で支援が困難とされた重度の障害者を受け入れている「株式会社ふくしねっと工房」(千葉県船橋市)の友野剛行代表取締役(55)に聞いた。
■もうけ求め次々、安易な考え危惧
――グループホーム(GH)など障害者福祉の現場で何が起きているのか・・
「障害者福祉はもうかる」と聞きつけた人から、事業の立ち上げの相談が増えています。しかし、人の命を預かり事業を続けていくことは、そんなに甘くありません。
我々も株式会社として障害福祉事業を展開していますが、その理由は「スピード」を重視しているからです。評議員会や理事会での決議が必要な社会福祉法人は意思決定に時間がかかる。目の前に困っている人がいたら、受け入れ、今必要な支援を即座に実践する上では、株式会社という形態にメリットがあると思っています。
障害者福祉は、まだまだ事業者が優位な売り手市場です。利用者一人ひとりが、どんな人で、どんな家族の元で育ったのか。利用者に思いをはせず、お金もうけの手段だと考える事業所では虐待が起こる可能性が高くなります。
株式会社などの営利法人の参入で、GHの数が増えていくこと自体は否定しません。障害者にとって、生活する場の選択肢が増えるからです。一方で、「障害者福祉はもうかる」という安易な考えで参入する会社も増えてしまっていることを危惧しています。
――GHの数は今年2月時点で全国に1万3512カ所と、10年で2倍近くに増えています。営利法人の参入が相次ぐのはなぜでしょうか。
2018年、GHの中でも基本報酬が他の類型より高い、「日中サービス支援型」が生まれ、参入が増えました。
昼夜問わず支援が必要な高齢の障害者が増えることを見据えて作られたはずが、若い重度の障害者を寝かせ、住まわせるというモデルが生まれてしまいました。
国は障害者が住みたい地域で暮らす「地域移行」を進めています。GHの需要は増えているため、大手建設会社が障害福祉事業者と手を組んで「ハコ」としてのGHを作り、事業者が運営していく方式も生まれています。
――もうけを優先するGHは、障害者の生活の場として持続可能なのか・・
本来、悪質な事業者は淘汰(とうた)されるべきです。しかし、すぐに次の行き場が見つかるわけではないので、単純な市場原理ではうまくいかないのです。
障害福祉事業そのものが、今後も社会保障費で守られるとは限りません。少子高齢化や障害者の増加もあり、GHを含めた事業所の基本報酬は必ず減っていく。我々経営者は考えないといけません。
障害者福祉は支援のスパンが長い。親から「お願いします」と預かった以上、20年後、30年後も質を低下させず、支援し続ける責任が我々にはあります。
投稿者:
友野剛行(ともの・たけゆき): 千葉県船橋市を中心にグループホームや就労継続支援事業所など約30事業所を展開する「ふくしねっと工房」(社員約190人)の代表取締役。障害者が望んだ地域で働き、生活できる環境とそれを支える人を各地に増やすことをめざす。のれん分けさせる形での独立、事業所の立ち上げ支援にも力を入れている。